本文 17日のつとめて立つ。昔、下総の国に、まののてうとといふ人住みけり。疋布(ひきぬの)を千(ち)むら万(よろづ)むら織らせ、晒(さら)させけるが家の跡とて、深き川を舟にて渡る。昔の門(かど)の柱のまだ残りたるとて、大きなる柱、川の中に四つ立てり。人々歌読むを聞きて、心のうちに、
朽ちもせぬこの川柱残らずは 昔の跡をいかで知らまし
その夜は、くろとの浜といふ所にとまる。片つ方はひろ山なる所の、砂子はるばると白きに、松原しげりて、月いみじう明かきに、風の音もいみじう心ぼそし。人々をかしがりて歌よみなどするに、
まどろまじ今宵ならではいつか見む くろとの浜の秋の夜の月
訳 9月17日の朝早く、いかだを出発する。下総の国にまののてうという長者が住んでいたという所に着いた。とても裕福な長者で、絹の織物を千巻も万巻も織らせていた。川のなかで色落ちしないようにさらされていた。その長者の大きな邸宅の跡が今も川の中に残っている。その深い川を舟でわたる。深い川の底に昔の門の跡の柱が残っていた。大きな太い柱が、川底に四本立っていた。
みんな歌を読み始め聞いていた。しかし、わたしも読みましたが、心の中に留めた。
くさりもしないで、川の中に柱の跡が残っている。この柱の跡が無ければ長者が住んでいたとい うこともわからない事でしょう。
長者の話を聞いた日の夜は、くろとの浜というところに泊まった。片方は広々とした小高い砂丘ではるばると白砂が続いている。そこに、松原が茂っていて、月がたいそう明るくてらしている。風の音が心細く聞こえて趣深い。人々は感激して、歌を詠み始めた。わたしも読んでみた。
今夜は決して眠らない。この美しいくろとの浜の秋の夜の月を、いつ見ることが出来るでし ょうか、しっかり見ておきましょう。
学ぶ
※歌が二首出てきました。和歌を即興で作られる当時の人々は素晴らしいですね。AI人口知能は人間を超えられるのか? 今、話題になってますが、AIが心情や情景を表現できるとは思えないですね。5ー7-5ー7-7の31文字。AIは文字を拾うことは出来ますが、心がない機会装置なので、相手に心情や情景を即興で的確に伝えることてできるでしょうか。美しい景色に出会うと皆さんで歌を詠みあうこと、平安時代の人々はすばらしいです。
孝標女も牧野富太郎も歌がうまいですよね。牧野さん自叙伝や多くの本を書いておられますが歌を沢山入れておられるのですね。気持ちがよく伝わります。すえこ夫人55歳、早くなくられたのですね、
墓石に歌二首彫入れられてる。牧野富太郎の愛情の深さがわかります。和歌の素晴らしい特性です。
※孝標女の願い。都にある物語を沢山読みたい。旅の道中で聞く、土地に伝わる伝説などにも興味深いのですね。一行に混じって熱心に聞いたことでしょう。
※水中に残る柱の跡を見て、皆さん興奮、長者の大邸宅の門の跡と受け止めたのですね。でも、川にかけられていた橋が、大水で流された柱の跡だと言う説もあります。しかし、現実的な説明をすると夢がなくなり、面白くないですね。今でも観光地に行くとガイドさんの説明いい加減はものです。
また、横道にそれますが、ときどきUFOを見たと言う人がいます。そんなの在るわけないやろなんて言う人もいます。でも、否定するのは夢のない人ですね、興味を持って聞いてあげましょう。アメリカ航空宇宙局でさえ、UFO存在します。只今調査中ですと言ってますね。